先祖返り通信
2002年月4号 其の拾

 3月上旬には、チョウチョが舞い、中旬、畑では菜の花が満開に。毎度、この書き出しで同じことを繰り返したくはありませんが、やっぱり暖かすぎる。変です。小学校の入学式に、母と桜の下を歩いたのを憶えています(東京)。今時の新1年生は、葉桜の下の式でしょうか。

 そして、こちらは3月に入ってから、まともに雨が降りません。暖かさがあっても、水が無ければ新しく畑に落とした種は芽を出さず、苗は枯れます。つらい日々です。寒い冬が終わり、新緑が色とりどりの花が、鳥たちのさえずりが気持ちを晴れやかにするはずの春に、ふと、ため息をついている自分に気付きます。


対チュウ関係

 3月に入り、ナスやピーマンなどの夏野菜の種まきをした。芽を出すのに、野温でも20℃必要なので、発酵熱を利用した踏み込み温床(後述)を作って苗を育てる。温床の中で種をまき、良い感じに芽も揃い、喜んだのも束の間、一日に多い時で10本以上の発芽したばかりの苗たちが双葉からなくなっていた。食痕や侵入状況から、どうやらホシはネズミらしい。

 さて、困った。ご近所の年配の先生方は、猫イラズ(毒餌)やネズミホイホイを薦めてくれる。でもなあ、と悩んでいる間にも、苗はネズミに間引かれている。そこで有機農業の先輩舘野さんに知恵を借り、対策をとる。苗箱の周りを囲ったり、ネズミの通り道にチクチクする杉の葉や栗のイガを敷きつめたり、苗箱の近くにクズ米のお供えをしたりした。それからも何本かやられたが、必要量と考えている以上の苗は、まだどうにか生き残っている。しかし、多くやられたナスは、まき直し。

 苗を育てているビニールハウスは、倉庫も兼ねていて、ネズミの餌となる米糖や、穴貯蔵したサツマイモなどがあり、外敵もいないので、それこそネズミ算式に増殖してしまった。温かなハウスや踏み込み温床が悪の、いやネズミの温床になってしまった。オイラの都合で作り出した絶好の住環境の中で増え過ぎたネズミを、百姓としてのオイラの都合で数を減らしたい。以前「虫見」のテーマで書いた時(其の四号)、沢山の虫の命をオイラの手の中で奪った。しかし、ネズミは虫たちのように簡単に手にかけることはできないし、そんなことはないのだが、虫よりも少しでも大きく感じてしまう命を奪うことに、どこか引け目をおぼえる。

 小さい時、オイラはハムスターを飼いたかった。仮に苗を食うネズミがハムスターや犬などの他の動物や、たとえ人間であってもオイラの百姓の邪魔をする奴は殺すのだろうか。1匹だけ追い詰めて殺したネズミがいる。断末魔に「勝手だね。アンタが作り出した環境で生活していただけのオイラを殺すなんて。オイラはアンタに飼われていたと思っていたのに。」とは、言わないけど。「餌が沢山あって、先進国というハウスにヌクヌクと暮らすアンタ達とおんなじじゃないの?」とも、オイラに殺されたネズミは言わないけど。

 ネズミを食べもせず、ただ殺すだけ。ネズミの命を奪うオイラに正当性はあるの?甘い!甘い?今のオイラの実力では、殺さずにはオイラがやっていけなくなってしまう?そもそも自然に手を加える農とは、ヒトの命のために、他の命を奪うことの上に成り立っているのでは?畑の作物も生を全うする前に、ヒトの都合で収穫され、片付けられる。本来なら、花を咲かせ、次の世代の種を残して朽ちたいはず。雑草といわれて、引き抜かれる草だって、志半ばだろうに。

 環境問題から有機農業を志した自分がいる。しかし、自分の都合や浅知恵で自然に手を加えることで、生態系を崩している自分もいる。同時に自然の厳しさも感じる。甘いことをしているものは生き残れない。これ以上苗がやられるようなら、毒でもホイホイでも使うかもしれない。でもいつの日かできるだけ殺さない、共生の農ができるようになりたい。とネズミを手にかけて改めて考えた時、百姓を始めて2年生になっていた。

(栃木版トム&ジェリー)

今後出るであろう野菜たち

 露地で周年栽培をしていると、季節の変わり目に端境期(はざかいき)と呼ばれる野菜の少ない時期がある。寒さで畑に種を落とせない冬から春への移行期の端境期が長い。加えて春先の温かさで、冬の貯蔵野菜の傷みが早く、3月の種まきはじめ、苗の植え付けはじめの乾燥による春野菜の遅れ、不出来が予想され、4月はかなりきつそうです。セットに入れられる野菜が5種類を下回るようなら、休みも考えざるを得ないでしょうが、温存してきた干し野菜や新しく出てくる新芽の間引菜、雨が降らずに遅れていた竹の子やサンショウなどの野草などをフルに使っていこうと思います。中にはエッ、こんなものが!これ何?もあるかもしれませんので、お楽しみ(?)にしていて下さい。
(例えば、ねぎ坊主。天ぷらにすると春を感じさせる意外なおいしさがあります)
それから、大根、人参、芋茎などの干し野菜の戻し汁は捨てずに、料理に使って下さいね。


今月の先祖帰り

 最初の文に出てきた踏み込み温床。これが何ともすぐれたものです。竹で骨組みを、側面は稲ワラを編んで囲み、枠を作ります(最初の温床は、不精をしてパレットで枠を作ったのが、ネズミの格好の住み処を提供してしまったようです)。その枠の中に、落ち葉、ワラ、米糖、鶏フンを入れ、十分に水をまき、踏み込んで空気を抜きます。ここまでの工程がうまくいけば、2日後位には落ち葉の発酵熱で30℃以上の温床が得られ、種まきができます。

 ビニール資材を一切使わない枠の作り方は、舘野さんのお父さんが教えてくれました。これを自分でやってみるとガタガタでひどく不細工になってしまいました。水加減、踏み込み加減も難しく、最初はうまく熱がでません。やはり経験(失敗)が必要です。今年は3回温床を作りましたが、3回目のトマト用の温床はうまく熱がとれました。昔はどの農家でもこの方法で苗を作っていましたが、今では苗を買ってくる農家が多いようです。作っていても熱源に電気を使ったりと、手間のかかる昔ながらのやり方はすっかりすたれてしまいました。

 踏み込み温床での苗作りは、苗の成長に合わせて自然に少しずつ床温が下がり、苗作りが終った後の温床の落ち葉は、やがて栄養分を含んだ堆肥になり、また来年の種まき用の腐葉工(床土)を提供してくれます。どこでも温床を作っていた頃は、価値のある落ち葉をさらうため、雑木林は整備されていましたが、今では篠竹が乱立し、不法投棄の場になった所が多くあります。価値あるものがゴミになり、そのことが更に大きなゴミをもたらすことになりました。林で落ち葉をさらっていても、いつ捨てられたものか定かではない、土に戻らない、循環の輪からはずれた、一時的な便利をくれたビニール製品を分別するのにも時間をとられます。

 舘野さんのお父さんが「昔はビニールなんて無かったんだからね。ワラで何でも作ったんだからね。」と何度も教えてくれました。来年の枠、温床つくりが楽しみです。


後記

 雨が降らないなあ、と困っていた月末の昼に、にわかに空が暗くなり、雨を期待して空を見上げていると、降ってきたのは、何と雹(ひょう)。幸い大粒にはならず、ビニールハウスや作物には被害が出ませんでしたが、私を慌てふためかせるのには十分でした。全くいろんな事が起こり、通信のネタには事欠きませんが、も少し平穏に百姓道を歩かせてくれても良いのになあと思います。

 今年から実験的に機械で耕すことをせず、草も根こそぎ取らない、いわゆる不耕起草生栽培をすることを許される畑を借りて、野菜を作ってみることにしました。いつもそうですが、何か新しく事を始める時のドキドキ感がたまりません。田んぼで米を作りたい、鶏を飼いたい、などなど新たにやりたいことは沢山あり、毎年少しずつ何か新しいことができ、「共生」に近づけたらと思います。こんな気持ちを味わえるのだから、少々忙しくても仕方ありませんかね。では又来月。つづく

コバ
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